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理事長コラム


単位量の“線量”が齎すリスクは
内部被曝と外部被曝で同じとしていいか?

加藤和明
2012年03月10日

 著名な放射線科医師である東京大学のN准教授が、週刊新潮に「がんの練習帳」と題するコラムを連載している。一昨日付で発行された号(通巻2832号)に記載の第140回分(71頁)にはクイズ「がんの練習問題」が2問出題されていて、正解者には抽選で著者の近著がプレゼントされるとのことであった。

 さて、その第1問は『内部被曝20mSvと外部被曝20mSvでは、どちらがより危険か?』というもので、答えを、@.内部被曝、A.外部被曝、B.同じ、から選びなさい、というものである。

 先程、次号(通巻2833号)を書店で見かけたので答えを見てみたら正解はBとしてあった。多分、自称他称を含め、専門家の多く(恐らく大多数)も同じくBを正解とするものと思われる。

 しかし、筆者は正解をAと考える。その理由をこれから述べる。先ず、ここでいう「線量」は「実効線量」を意味するものであろう(そうでなくとも以下の議論を本質的に変えるものではない)。次に、内部被曝でいう「線量」は、放射性物質を体内に取り込んだ後、長期間(通常50年とか70年が採られる)に受ける線量の積分値(預託実効線量)である。

 職業人についての被曝線量の管理は“帳簿管理の便”を考え、ある年度に受けた外部被曝線量と内部被曝に係る預託実効線量を合算してその年度の被曝線量として処理することに決められている。外部被曝によって受けたであろう実効線量の評価には(実効線量の代用品である)“1cm線量当量”の測定結果を用い、内部被曝によって将来に亘って受けるであろう線量(預託実効線量)の評価は放射性物質の摂取量の評価値に、別途決められている換算係数を掛けて算出されるが、その換算係数は、あるモデルを使って計算機で算出されたものである。

 出来栄えの良し悪しについての論評は置いておくとして、実効線量なるものは“影響の発症する可能性(すなわちリスク)”の測度measureであって“影響そのもの”の測度ではない。そして、放射線被曝に伴うリスクの値は、本来、被曝の時点(年齢)とリスクを評価する時点(年齢)の双方に依存するものである。被曝の時点からある時間が経過し、その間にリスクの発現が見られなかったとすれば、その間のリスクは結果的にゼロに確定する。被曝の時点(もしくは年末あるいは年度末)でリスクを評価する場合、内部被曝についてはまだ受けていない被曝まで取りこんでリスクを評価しているという意味で過大評価となっているのである。内部被曝と外部被曝では同じ線量という言葉を使っていても中身は違うものなので、本来比較するならリスクに置き換えて行うべきものであり、そうする(実際のリスクで比較する)と、内部被曝の方が小さくなる。実は、それ以外にも、内部被曝の方が“線量率”が当然低くなり、リスクは線量率に依存し、低線量率ではリスクが低いという事情もあるのであって(ある線量率以下ではリスクが実際上ゼロと見做せるとする見解が有力)、両者の差はさらに大きなものとなっているといえる。

 以上の理由から、N先生が週刊新潮に示されたお答えは正しくないと考える。そして、このような誤解が内部被曝に対する国民の不安を強める方向に働いていると心配するものである。
2012年03月10日



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